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裏庭が突然消えた。
正確に言うと、我が家の裏にある小さな雑木林である。ここを我が家の庭として景色を借りていたと言ったら良いか。
この土地を買う時も、並んでいる宅地の中で裏にこの雑木林があるこの場所を、わざわざ選んだのである。
春には優しい木漏れ日が部屋の中に差込み、夏には涼しい風が家の中を通り過ぎ、秋にはささやかながらも色づいた紅葉が舞い、冬には雪の静寂を堪能できたあの場所が、突然消えてしまった。
あらん限りの力を絞って毎年毎年、短い地上での生命の歌を絶唱していたセミ達の声ももう聞く事はできない。
これからは、無機質な車のエンジン音が響き、排気ガスが漂うだけの場所となってしまった。
諸行無常。
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