オーロラ  
 

2006-10/30 (Mon)

 
 

ではオーロラの話を書こう。

私が最初にオーロラを見たのは、成田−ニューヨーク間の飛行機での事だ。意外と知られていないが、秋から冬に掛けてのこの路線の往路は夜、北極圏の上空を通るため、時折オーロラを見る事ができる。

私の場合、今まで何度と無くこの路線を利用したが、おそらく50%以上の確率でお目に掛かっている。従い、この往路を利用する場合は、進行方向に向かって左側の窓際の席を取るのが常である。ちなみに復路はずーっと昼なのでオーロラは見る事ができないのでご注意を。

地上から初めてオーロラを見たのは、1999年の3月末、家族でアラスカはチュナ温泉に行った時である。無論、この旅行の目的はオーロラ鑑賞で有り、父親の一方的な想いを遂げるために家族を巻き添えにしたのは言うまで無い。

当時、私はアメリカ駐在中で、日本から出向くより旅費が安く付くのも好都合であった。従い、ニューヨーク−ソルトレークシティ−フェアバンクス、そしてフェアバンクスから車で数時間掛けてチュナ温泉に行ったのである。

滞在した5日間は幸い天候に恵まれ、ほとんど毎日オーロラを鑑賞する事ができた。そんなにオーロラは頻繁に見れるのかと言うと、実は年間200日以上鑑賞が可能である。但し、北極圏は夏の間は白夜となるので見る事ができないが、天候にさえ恵まれれば可能性は高いのである。

まず着いた初日。夜になり、外に出て空を見上げると、空の真ん中を一直線に太い雲が伸びている。随分長い雲だなあと見ていると、ちょっと色が緑白色。それはちょうど光っていない蛍光塗料のような感じ。それも微かだが、光が走る。あれはひょっとしてオーロラか?と思い、その雲を数分間露光して写真に撮った。ほどなくしてその雲は徐々に細くなり、最後は消えてしまった。

後で現像してわかったが、それは紛れも無くオーロラであった(当時はまだデジタル写真でなかった)。と言うのは、その写真には典型的なカーテン状のオーロラが写っていたのである。従い、よく写真で見るカーテン状の幻想的なオーロラは、あくまでも写真を露光した結果写るのである。然るに、あのようなカーテン状のオーロラ写真を撮るためには、動かず静かに空に横たわるオーロラが最適である。

動かないオーロラは肉眼で見る限りでは、あのような幻想的に光るオーロラでは無く、単なる雲のようである。その光はとても淡く、闇夜に白い雲が漂っている程度で、あまり面白くない。飛行機で見る場合も、このタイプのオーロラの場合、知らない方が見たら単なる雲と思って見過ごしてしまう場合も多いと思う。

ここまで書くと、オーロラは意外とつまらないと思ってしまう方も多いと思うが、実はオーロラの凄さは、光では無くその動きである。

動かないオーロラは露光した写真でのみ価値があると言えるが、動くオーロラは写真にとっても動きが早いので露光しても、何だかモヤのように写ってしまう。しかし、肉眼で見た場合は実に感動的である。

チュナに来て最初は、その動かないか、動いても動きの激しくないオーロラばかりで、時折走る光にそれなりに感動するものの、あまりグッと来ない。もっと凄いのもっと凄いのとばかり零下20度の気温の中、深夜まで鑑賞していたが、子供達もいい加減寝ぼけ眼をこすり始めたので、部屋に戻る事にした。

部屋で子供を寝かし付けると、妻がもう一度外で見たいと言う。零下20度の外に再び出るのは気が引けたが、はるばる来たのだからと再び防寒具を着て外に出る事にした。

外に出ると、空の真ん中を一本のオーロラが貫いている。あまり代わり映えがしないなあと、暫く見ているとそのオーロラが、何だか急に膨張した感じになったかと思うと、突然破裂して、全天をそれこそ生き物のように駆け巡り始めたのである。

それはオーロラの感じが今までと何だか違ってきたなあ、と思う間も無い出来事で、光はほとんど無いが、漆黒の夜空を背景に白い龍がそれこそ全天をもの凄いスピードで乱舞しているかのようであった。

その乱舞の最中、時折、空をサササササーと言う感じでオーロラが、空から降って来る。それは木目細かいパウダーを、誰かが空高くから撒いているようであり、そのパウダーが頭に降ってくる感じを受けて、思わずちょっとした恐怖感すら覚えた。

その乱舞の数分間、そのあまりの荘厳さに夫婦ともども感嘆の声を上げながら、天空狭しと駆け巡るオーロラショーを堪能したのであった。

そう、もう一度言うがオーロラの凄さはその光では無く、その動きである。それは光が淡いためビデオには写らないし、テレビで見る高感度カメラの映像とは比較にならないほど、肉眼で見たその姿は、それはそれはもの凄い。

後でそのホテルの従業員から聞いたが、その夜のオーロラの乱舞は半年振りの凄さであったそうな。何でもオーロラの醍醐味は「Break Out」と言われる現象で、オーロラが十分に発達してくると、それが破裂して空を動き回る現象の事で、正に運が良い事にそれに今回お目に掛かる事が出来たと言うわけである。

何でも、オーロラが発達せずに消えてしまう事が多いそうで、この現象を見れることは非常に稀なのだそうだ。妻があの時、もう一度見たいと言わなければ見れなかっただけに、妻には感謝すること仕切りである。

そのチュナ温泉。屋内だけでなく、屋外にも温泉がある。その温泉に浸かり頭を凍らせながらオーロラを楽しむなんて、あれは最高の贅沢であった。

その時はまだ凍る髪があったと言う事だが。