不穏な親父  
 

2004-11/28 (Sun)

 
 

どうも私は不穏らしい。

あまり気がつかなかったが、この歳になってラガーシャツにジーパンでニットの帽子にコートでふらつくのはかなり不穏らしい。おまけに休日は不精ひげ状態であるから尚更か。その不穏な親父、単身赴任になってからは一人であっちへフラフラ、こっちへフラフラしてる。平日は健全に仕事一本槍であるから、せいぜい会社の連中と一杯やる程度でフラつく暇は無いが、休日はそうは行かない。東京時代も休日はほとんどフラついていたが、一人では無く必ず家族かバンド仲間とでフラついていたので、あまり不穏に思われなかったが、ここでは一人なのでそうも行かないらしい。

またよせばよいのに、アベックの行きたがる場所に出向いてしまう悲しい趣向。映画館は元より、公園とか、洒落た喫茶店とか。こないだなんか神戸の夜景を見に行こうと、六甲山の横にある麻耶山の頂上まで行ってみた。もうほとんど終電間近にケーブルカーの乗り場に現れたこの不穏な親父に「今からですか?終電は8時なので頂上には10分くらいしかいれませんよ?」と若い女性のケーブルカーの運転手が、多少ビビリながら話していたのが印象的だった。やはり変質者か自殺志願者にしか見えないのかもね。

夜の帳がしっかりと下りた山の中を、私とうら若き女性運転手を乗せて走るケーブルカー。かなり微妙なシチュエーションである。そして緊張気味の沈黙の中ほどなく終点についた。山頂へはここからロープウェイを乗り継ぐらしい。「ではお気をつけて、終電に乗り遅れないように」と引きつった笑いを浮かべた女性運転手に、通常のお礼を述べてロープウェイ乗り場へ向かった。もう少し若ければ「Speak Lark ?」てな冗談を言えたかと思うが、今の私では失脚が怖くてそれはできない。

ロープウェイは車内に灯りも無く、それこそ漆黒の中、山頂へと車体を風に揺らせながら走って行く。無論、私以外には誰も乗っていない。でもお陰で六甲アイランドからポートアイランドまでの神戸の100万ドルの夜景を独り占めできて、非常に贅沢な一時ではあった。

山頂はやはりカップルの巣窟。夜景を堪能するに適当な場所があったが、そこには既にカップルが陣取り、この一人佇む不穏な親父を受け入れる気配は全く無い。そうこんな奴はきっと私しかいないのである。仕方ないので遠巻きに神戸の夜景を見るしかなく、既に肌寒くなってきたのも相まって、そのもの悲しさはまた格別であったな。

ほどなくロープウェイ最終便のアナウンスがあった。しかしたくさんいるカップルはロープウェイに行く動きは無い。よく見ると傍らに駐車場が有り、くだんのカップルは皆ドライブで来ているらしい。納得。

ロープウェイに行くと、私以外は誰もいない。カップルの間に親父一人が割り込む姿を想像して、背筋が寒くなっていたので、その事にほっと胸を撫で下ろしたのである。と思ったが束の間、一組のカップルが走りこんで来た。

間違いなく、このカップルは心の中で舌打ちをしたに違いない。このロマンチックな二人きりの空中旅行の夢が、この若干一名の不穏な親父のために、打ち砕かれたのであるから無理は無い。そのロープウェイの中での私は、かってないほど体を縮めて、隅っこの方で息を潜めていたのである。ああ、ごめんなさーい。

その話を部下にしたら、「それじゃ京都三千院はどうですか?一人旅の女性がいますよ、きっと」とアドバイスされた。それはグットアイデアだ!

。。。でも、そこに男が一人で行くのはもっと不穏だよな。