地震情報  
 

2003-9/12 (Fri)

 
 

ご参考まで。

出典:週刊朝日 2003.9.19号 P28〜31。民間研究者が、FM電波でこれまでにない「異変」観測。「9月中旬、M7.0以上」 関東大地震説の確度。

関東大震災から80年。すでに関東はいつ大規模な地震が起きてもおかしくない時期に入っている。いつかは来るが、いつ来るかはわからないはずの地震発生を、「予測できる」と主張する民間の研究者がいる。しかも、早ければ、9月中旬にも阪神・淡路大震災に匹敵する大地震が起こるというのだ。

「近々、関東でかなり大きな規模の地震がおこる可能性がある。事前に公表して、多くの人に注意を喚起したい」

本誌にそうした申し出が届いたのは8月中旬だった。本誌で2001年5月25日号から12月28日号まで「地震予報への道」を掲載していた串田嘉男さん(45)からだ。串田さんはFM電波を使って、地震の前兆現象を検知、数多くの地震発生を予測してきた実績を持つ。その串田さんが当初本誌の取材に対し告げたのは、「9月16日、17日を中心に前後2日の間に東京、神奈川を中心とした南関東圏でマグニチュード(M)7以上の地震が起こる可能性を示す兆候が観測された。10月31日前後3日の間にM6前後の大きな余震も起こる可能性がある」という具体的で大胆な「予測」だった。

串田さんとは、そもそもどんな人物なのか。串田さんはもともと天体の観測・研究を目的に、1985年に標高千メートルの八ヶ岳南麓に移り住み、私設の天文台を開設した天体観測の愛好家だった。93年8月はじめ、串田さんは曇りや雨の日でも流星の出現数を記録するためにFM電波による観測を開始した。流星が出現すると、普段は届かない遠くのFM局が発信している電波が流星に反射して、受信できる。通常は、一本のきれいな基線を描くペンレコーダー(記録計)が、流星が現れると、線が跳ね上がるように記録される仕組みだ。

串田さんがこのFM電波による観測を始めたその日に、ある異変は起きた。流星が出現しないときは細く1本の基線を描くはずのペンレコーダーが、太いギザギザの基線を描いていたのだ。その2日後の93年8月8日、北海道の奥尻島で震度5(M6.5)の地震が発生した。同年7月12日に起こった北海道南西沖地震の最大級の余震だった。

テレビでこの地震を知った串田さんは、ペンレコーダーに記録された変動が、この地震に関係しているのではと直感したという。以降、串田さんは流星を示す記録より基線の変動に、より強く注目するようになった。数ヶ月観測を続けるうちに、当初は単なる思いつきだと思っていた自分の考えに自信を深めていった。そして、95年1月14日の深夜から15日未明にかけても、八ヶ岳にある串田さんのペンレコーダーは異常な変動を描いていった。

「基線の太さがいつもの倍以上で、それが一晩じゅう続いた。翌日も翌々日も基線が太い状態が続き、機械が壊れたかと疑ったくらいだった」

17日早朝に発生した阪神・淡路大震災(M7.3)の前兆だった。これを機に、多くの来場者があった公開天文台を一時閉鎖して、地震の前兆観測に取り組むことを串田さんは決意した。95年8月からは、観測結果と蓄積された経験から推定できる地震活動とその予測分析をまとめてファクスで配信する「地震前兆検知公開実験」を開始した。現在4千人が串田さんが配信する観測分析情報を目にしている。FM電波による観測を始めてから、この8月で8年が過ぎた。本格的な観測をはじめた97年以降、M5以上の地震で前兆の検知ができたのは50件以上になるという。

「当然、うまく予測できなかった地震もあります。たとえば、震央が海域にあって深い場合は前兆が見えにくい」

串田さんの観測の実績について、地震の専門家はどうみているのだろうか。東海大学地震予知研究センターの上田誠也教授(地球物理学)は、こう評価する。

「地震の前兆現象が、なぜFM電波の散乱を引き起こすのかのメカニズムが明らかになっていない点で、弱いかもしれないが、串田さんのこれまでの実績は無視できない」

一方で、地震学の専門家の間では、東海地震を除いて、地震予知は不可能というのが常>識となっている。政府の地震防災対策強化地域判定会会長も務める溝上恵東京大学名誉教授はいう。

「東海地震の場合は、発生の1日から半日前くらいに前兆を察知して、対応できる仕組みが法
的にも科学的にも整っている。しかし、これも予知というよりは、がんの早期発見のようなもので、安政時代以来繰り返し起こっている東海地震だからできることだ。日本では有感地震が毎日起こっている。M6クラスの地震はいつ、どこで起こるかわからない。もし予知が可能というなら、科学的な根拠を明らかにしたうえで、震源地、震源の深さ、断層、歪みの方向性といった地震像を事前に予告すべきだ。そうでないと、占いのたぐいと同じレベルの話にすぎない」

こうした批判に串田さんはこう反論する。

「私のFM電波による観測も含めて、電磁気学的な手法による観測は新しい分野で、専門家と呼べる人はまだいない状態。地震学者も含め、地球物理学、大気電気学などの専門家がジャンルを超えた協力をするべきではないか」

実際、串田さんと同じようにFM電波を使って、前兆と地震発生の関係を観測する学者が増えつつある。

「串田さんの予測手法には、かなり信憑性がある。私の観測でも、散乱波が出現しておよそ15日後、出現が止まってから4〜7日後に地震が発生している」と話す北海道大学大学院理学研究科の森谷武男助教授もその一人だ。森谷助教授は、「週刊朝日」の串田さんの連載記事を読み、その手法に興味を持った。串田さんに手法のレクチャーを受けて、自分でも北海道内に4ヵ所の観測施設を設置、昨年12月から観測を始めた。その結果、森谷助教授は、串田さんの観測域外で起こった5月26日の宮城県沖地震(M7.0)と7月26日に起きた宮城県北部地震(M6.2)の前兆を検知しているという。

「5月に千葉の幕張で開催された地球惑星科学関連合同学会で昼間、私が『改良串田法』と呼んでいるVHF散乱体探査による地震予報法について、地震の前兆としてこんな感じの変動が現れる、と説明したら、その夜に幕張でも揺れが感じられた。それが宮城県沖地震でした」

7月の宮城県北部地震についても、「秋田、八戸、福島、千葉のFM局の電波を使って観測しますが、7月17日に福島局だけに異常波形が現れていた。これまでの観測経験から、7月末に岩手県南部から福島県北部の間で、海岸付近から陸にかけて震央がある比較的規模の大きな地震があると想定していた」という。

森谷助教授の観測は、北大大学院理学研究科附属地震火山研究観測センターとの共同研究として行われている。

「ほかの大学の地震研などと違い、うちは大学が賛同してくれて、研究資金も出してくれている。主に道内を対象に観測している。5月と7月の宮城県の地震の前兆の観測については、10月の日本地震学会で発表する予定です」

千葉大学でも、大学院自然科学研究科や同電子光情報基盤技術研究センターが共同で、県内3ヵ所のFM電波による電磁現象の観測を行っている。メンバーの一人、工学部の鷹野敏明助教授はいう。

「われわれの研究でも、地震発生2日前にFM電波の受信強度の変動と地震発生確率の間には、相関関係があることがわかっています」

前出の上田教授も、「これまでの地震学者たちのやってきた手法では“予知”は当分不可能かもしれないが、串田さんのFM電波による観測も含め、電磁気学的な観測方法による予知については、明るい見通しを持っている」 という。串田さんは現在、八ヶ岳にある30台の観測装置のほか、北海道、秋田県、高知県でも観測をしており、全部で50台の観測装置が24時間、日本列島の約70%の領域をモニターしている。

「今回の変更は、50台の観測装置のうち33台で感知しています。これは、観測以来初めてのこと。しかも、8年間の観測経験で、今回のような変動形態が長期にわたって現れた後に発生した地震は、今年1月19日に発生した東海道沖地震(M5.3)しかない」という。

これまで観測してきた事例では、地震の前兆が弱く現れてから、徐々に強くなり、極大を迎える。その後、弱まっていき完全に静穏化したのちに地震が発生するというのが、一般的なパターンだ。しかし、今回はいったんは終息したかに見えた波形が、また現れるなど、変動が極大化するポイントが2つあるとも受け取れ、前兆の種類の組み合わせと出現時期、出現期間の長さが過去の事例とは異なっている。この変動が一連のひとつの地震活動を示しているのか、それとも本震と余震のように2つの地震が起こる前兆が出ているのか。この解釈によって、地震の発生規模や時期について、以下のような3通りの可能性が考えられるという。

1つ目は、2つの地震の組み合わせの場合だ。「本震と余震かもしれないし、別の地震がたまたま同じ地域で起こるのかもしれない。いずれにせよ、8月下旬に変動が終息し、静穏期に入ったとすると地震の発生時期は9月16日、17日±2日、推定される規模はM7.2±0.5。さらに約45日プ±3日後に推定規模M6〜6.5という大きな余震が発生する可能性を示唆している」これが冒頭のシナリオの最新版で、地震が起こる確率を「60%くらい」と串田さんは現時点では読んでいる。

2つ目は全体がひとつの地震活動と解釈した場合だ。「1つ目のシナリオよりは、規模はより大きな値が推定される。発生時期については今後数週間から1ヶ月の観測を見ないと決定できないが、変動が続いた期間からみて、10月下旬以降となる可能性が考えられる」。その確率は「30%くらい」とみる。

残りの10%くらいは、何も起こらないケースだ。「何も起こらないといってもわれわれが感知できないだけで、地中では変動が起こっているはず。自然現象には例外がつきもので、100回同じ現象が起こっても101回目は違う。現在の予測とは異なる、有感地震にもならないような現象の可能性がある。またサイレント地震や火山性の活動前兆など、大きな地震として感じられる活動の発生しないケースはある」

串田さんは98年から「公開実験」という形で、観測・分析結果を限定的に公開してきたが、一般向けには公表してこなかった。

「軽微な地震ならともなく、M6以上の地震の発生を事前に公表した場合に、数字だけが独り歩きして、社会混乱を起こす可能性もある。多くの人に公表するには、観測歴や過去の事例の数が少ないとの自覚がある」という理由からだ。またもし、予測が外れたら、「自分のやっているFM電波による手法だけでなく、電磁気学的な手法で前兆を検知することそのものまで否定されてしまう危険がある」

しかし、今回はそうしたリスクを承知のうえで、公表に踏み切ったことを串田さんはこう説明する。

「もっと整った観測条件で多くの事例を重ねたうえで、予測の公開ができればよかった。しかし、地震は待ってくれない。2月から続いた変動を目の当たりにして、この数ヶ月間、悩んできた。もし、自分の予測に近い形で、阪神・淡路大震災規模の地震が首都圏を含む南関東で発生した場合、大きな被害が予想される。ふいに大きな地震が来れば、あわてるかもしれないが、くるかもしれないと思っていれば、落ち着いて対応できるはず」。前出の上田教授は、こうアドバイスする。

「今回と同じような事例は、彼の過去の観測事例でも極端に少ないと聞いている。降水確率まで公表している天気予報ほどの確度があるかどうかは別として、もし予想どおりとなったときの事態の重大さを考えれば、これを無視すべきではない。受け取る側も、おのおのができるだけの対応をすべきだろう。仮に予想した地震が起きなくても、串田さんはそれもよしとして研究に役立ててほしい。科学の進歩は仮説検証の歴史なのだから」。

串田さんの「地震予測」について懐疑的な、前出の溝上東大名誉教授もこういう。「予知はできないが、関東にM7前後の地震はいつ起こってもおかしくはない。もし東京という地盤の緩い過密都市の直下でそれが起これば、震度6強から6弱の範囲が広がり、大混乱や予想される。

 串田さんの「予測」を信じる信じないは別として、地震への備えは、できる範囲でしておきたいものだ。なお、今回の件について串田さんの観測方法や経験則、データなどの詳細は、串田
さんの公開実験の応援班のHPに9月7日の夜以降掲載される予定だ。

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串田さんの公開実験の応援班のHP
http://epio.jpinfo.ne.jp/

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串田氏によるM5以上の地震発生予測と結果の代表例
発生日 震央 規模
予測 結果 予測 結果 予測 結果
97.2.19± 97.2.20 北関東圏〜東北南部 福島県沖 M5.2±0.5 M5.3
97.5.13± 97.5.12 東北圏太平洋地域 福島県沖 M5.5±0.5 M5.5
97.10.26± 97.10.27 東北圏内陸 秋田県内陸南部 M5.0±0.5 M5.1
98.3.21± 98.3.23 関東千葉茨城付近 茨城県沖 M5.3±0.5 M5.3
99.2.1± 99.2.1 岩手県〜宮城県沖 福島県沖複合地震 M5.6±0.5 M5.1ほか
99.3.20± 99.3.19 宮城県〜岩手県沖 青森県東方沖 M5.9±0.5 M5.7
99.9.13± 99.9.13 関東茨城〜千葉付近 千葉県北西部 M5.0±0.5 M5.0
01.3.17± 01.3.24 広島県付近 芸予地域 M6.5±0.5 M6.4
01.8.26± 01.8.25 近畿圏 京都府南部 M6.0±0.5 M5.1
03.1.20± 03.1.19 東海〜東海沖 東海道沖 M5.6±0.5 M5.3