膝枕  
 

2003-1/6 (Mon)

 
 

見合いの席でいきなり膝枕をさせろって迫った男がいるのをあなたは信じられますか?

そのような厚顔無恥で非常識で破廉恥な男が私の身近にいたなんてとても信じられません。名は本人の名誉のために敢えて伏せておきますが、仮に「下神」としておきましょう。

私は思うのですが、見合いの席で「一発やらせろ」と言うような即物的なやりとりは実はそんなに珍しい事では無い気がします。やはり結婚においてはお互いの肌と肌が合う事が重要なポイントですから、これはお互いのためであると思うわけです。

しかしこの下神が投げ掛けた「膝枕させろ」と言う言葉には、この男がフェチでインモラルでアブノーマルでマニアックな人間である事を偲ばずにはいられません。例えて言えば、見合いの席で「スチュワーデスの格好をしろ」と言うのと同じくらい唐突で病的な言動と考えて良いのではないのでしょうか。

「やらせろ」と言う爽やかで清清しさすら感じるストレートな言い回しに比べ、この言葉にはどこか暗く淫靡な響きを伴っているといえます。まさに禁じられた遊びを、嗜虐的な笑いを浮かべてこの下神が行っている。そこには彼の内に潜む異常人格者の気配が感じられます。

その下神、結婚願望が強いわりには、理屈っぽく相手から敬遠され、おまけに10台の頃に付き合ってた女の事が忘れられず、チェリーボーイの身を固く守ってきた純粋な男でした。しかし、そんな彼も30台半ばを迎え、いよいよ何とかせねばと臨んだ、ほとんどの背水の陣でのお見合い。その席で彼はイチかバチかの暴挙に及んだのであります。

前夜から徹夜であったのを口実に、わざと昼間からワインを飲み、疲労困憊の極致を自ら演出し、「眩暈がする、倒れそうだ、今君の膝枕で寝ないと僕はもう永遠の眠りについてしまうかもしれない」と歯の浮くような言葉を臆面も無く切り出し、その異常さに怯え、断る術を知らない深窓の令嬢を文字通り騙し、欺き、膝枕の行為を半ば強引に横浜ランドマークタワーの公衆の面前で行わせたのでありました。

おお、神よ。この罪深き男を許し給え!

消息筋からの情報によると、この下神、実はこの膝枕は計画的行動で、自分がベビーフェイスであることから、ここで結婚を決めるには自分の可愛い寝顔を見せる事によって、彼女の母性本能をくすぐる事ができるのでは無いかと言うしたたかな計画の元、実行したようである。結局、それが功を奏したと言える結果になっているのは世の中不思議である。

いずれにせよ、今や二人の子宝に恵まれているわけですが、今尚、毎晩なさるようで、きっとその夫婦生活は尋常ならざるものと推察されます。ああ、恐ろしい。この男の前ではH社のHは「変態」のHであるとの言葉が妙に説得力を以って迎えられてしまうわけであります。