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それはほろ苦い思い出であった。
最近、アルツハイマー関連の話を書いているわけだが、それでふと思い出した話である。 ああ、そう言えば似たような経験があったなと。
それは私がまだ中学時代。グレてしまった高校時代はベルボトムのジーパン、ロンドンブーツに長髪と言う出で立ちであったが、中学時代は従順で大人しい紅顔の美少年であり、無論、詰襟の学生服を身にまとっていたのは当然の事であった。
ある朝の通学途中、東横線は学芸大学駅で電車を待っていると、女学生が用有りげに近づいてきた。そこはまだ私も思春期真只中の童貞。無論女性の手なども握った事も無く、芽生え始めた恋の憧れに思いを巡らす年頃。従い、その女学生の接近は否が応でも未知との遭遇であった。
そして内心ドキドキしながら『おお、さてはこれが夢に見た「告白」って奴か!?』と、これから未知の世界に突入する予感に、胸をときめかしたのであった。
そしてその女学生は私の横で止まり、モジモジしながら若干顔を赤らめ言ったのである。
「あの〜。。。」
おお、やはり「告白」かと興奮の絶頂に達した私は、半ば緊張した笑みを彼女に返した。 すると彼女は意を決したように言ったのであった。
「ズボンのチャックが開いてます」
そして彼女は踵を返すと走りながら人ごみの中に消えて行ったのであった。
それ以来もう二度と彼女とは会う事は無かった。
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