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7月は米国駐在時代のスリリングな話を書こうと思ったのだが。
でもいざ書こうと思うと、これをあの人が読んだらマズイとか、赤裸々な事実を書くと禍根を残す結果になりかねないとかいろいろ考えてしまい、結局差し障りの無いところで落ち着いてしまった。このような配慮で筆先が鈍るとは私もまだまだプロの物書きとは言えないね。でも今日で7月は最後だし、もう少し米国での解雇について書いておこう。
会社の赤字を生み出す要因となっている当時ニュージャージーにあった事務所を閉鎖する計画を立てた。すると当然ながら、そこに勤務する従業員は一部を除いて解雇せねばならない。解雇にあたり、やはりどうしても年老いた方々からその対象となるのは世の常である。
その事務所に長年従事してきた老年スタッフがいた。彼は一見従順であるがその実、裏ではいろんな問題を起しており、他のスタッフからの評判もあまり良いとは言えなかった。それで彼を解雇する段取りをつけに人事や弁護士と調整に入ったわけである。
ところが弁護士曰く、彼は絶対解雇できない。解雇して訴えられれば必ず敗訴すると言ってきた。理由を問うと次の通りであった。
−黒人である −病み上がりである −老人である −ニュージャージー州の法律は不当解雇に厳しい
この条件がすべて揃っているのであれば、どうやっても勝てないとその弁護士は言い切るのだ。これは解雇できない完璧なパッケージだと。事務所が無くなると言う明白な解雇できる正当な理由があっても、彼が明らかに不正を働いていても、このパッケージであれば勝つのは難しいとまで言う。
仕方なく、法外な退職金と退職後も給料1年分を働いてなくとも支払うとの条件で辞めてもらったわけである。
しかしその後も何度か彼は、この給料支払い期間の延長を求めて会社に現われたが、その度医者の診断書をちらつかせ、もう余命は長くは無いとか、いろんな手を使って同情を買おうとしてきたが、これ以上は会社としてはどうしようも無く、結局諦めてもらったのである。
でも辞めてもらった後、彼が会社に現われる度、ひょっとしたら切れて暴れるのでは無いかと恐れて、従業員は皆戦々恐々としていたな。
米国では解雇を恨み、銃をもって押し入り、関係者を射殺なんて言う事件は結構発生する。従い、私も彼が現われると緊張したものであった。他の従業員は彼が来るとほとんど逃げてたな。
従業員を解雇する時も、机からハサミや刃物は取り上げておけ、なんて言う指示が人事から下る。最後はもう慣れてしまったが、最初は「こんなことをしに米国に来たのじゃない!」とか思ったものだ。当時はカバンを防弾チョッキの生地を使ったものに変えたとか、家に怪しい贈り物が来たら開けるなとか、本当に日本ではちょっと考えられない事に気を使ったものである。
この辺りの感覚は日本にしかいない方にはなかなか理解されないだろうなあ。その点まだ日本は平和だが、これからどんどんいろんな人種が入ってくると、そうも言ってられませんよ。
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