米式給与吊り上げ(前編)  
 

2002-7/17 (Wed)

 
 

今月に入ってからは駐在時代のためになる話を書くと言っていて、忙しさにかまけてサボっていた。で、今日から再びと言う事で。

アメリカはご存知かと思うが日本式の年功序列型給与体系でも終身雇用制度でも無い。日本でも最近はこれが崩れつつあるが、まだ根強い物がある。アメリカでは如何に多く会社を変わっているかが評価のポイントでもある。そりゃ短期間にのべつ幕無しに変わっているなら別だが、2〜3年毎に転職しキャリアアップして行くのが、できる奴のパターンである。

従い、給与は転職する度に増えていくのである。そう言った社会風土であるが故に、一度エライ事件に遭遇した。

当時私の部に、インド人の若いハンサムな男がいた。口が上手でパフォーマンスも派手と来ているが、オカマの人事担当取締役に気に入られ、会社の中ではちょっとしたアイドル的存在であった。一見、上司の私にも忠実で、なかなか使い勝手のある男だったので重宝していたのである。名を取り合えずミックとしておこうか。

当時も日本時代と同じく、私はだいたい夜中の11時くらいまで働いていたのだが、ある日の深夜も10時を過ぎたあたりに私の席の電話が鳴った。こんな時間に誰かと思い、出ると外人であった。で、その男が「そっちにミックと言う奴がいるだろ」と聞くので、いるよと応えたらいきなり「ミックをうちで雇いたい」と来た。そうヘッドハンティングである。

それを聞いて私は焦った。ちょうど要員整理をしたばかりで、ミックに今逃げられたら大変である。私はその男に「今は譲る気は無い」と答え、次の日早速人事に相談しに行ったわけである。

人事としては、彼に逃げられたらまずいのであれば、待遇と給与を上げる事で対応しろとサジェスションされた。ミックに聞くと既に数社オファーがあるとのこと。その条件を聞き出し、結果それ以上の待遇と給与で引き止める対策をとった。無論、その後彼は辞める様な気配は無く、そのまま数ヶ月が過ぎたのである。

その数ヶ月の間に、某メーカーからアンパンマンこと、在米20年余りのバリバリのバイリンガル日本人を雇った。山のような仕事をこなすために、やはり日本人のメンタリティがわかり、英語もペラペラの人材が必要で、口説き落としたのである。もし、彼が来てくれなかったら、はっきり言って私はその時点で会社を辞めていたのは間違い無い。それどころか、エンパイアステートから身を投じていたかもしれない。とてもその時の状況は一人では対応仕切れない、それはそれは酷い状態であったのである。従い、そのアンパンマンは私の命の恩人だと言っても過言では無い。

例のミックヘッドハンティングの電話事件があった事など忘れかけた頃、また深夜働いていると、同様に今度はヒューレッドパッカー社(HP)を名乗る男から電話があった。その内容は以前と同様ミックをヘッドハンティングしたいとのこと。

私がまた下手な英語でしどろもどろでダメだダメだと応えて電話を切ったら、やっぱり深夜残業していたアンパンマンがどうしたのですかと聞いてきた。そこで内容を話すと流石在米生活20余年、即座にその電話の不自然さを指摘してくれた。

−元々ヘッドハンティングするならわざわざ上司に電話はしてこない。秘密裏にやるもの。
−なんでこんな時間にマネージャーである私が席にいるのを知っているのか?普通の米人の感覚ならこの時間は帰っていると思うはず。(日本人はクレージーです)

言われて見れば確かにそうだ。当時は赴任して間もなく、まだアメリカの勝手がわからず相手の電話にまともに対応していたが、冷静に考えるとおかしな話。それで、この電話で誰が恩恵を被るかと言うと、自ずと導かれるのが、揺さぶる事によってまた給与が上がるかもしれないミック。

そう、勝手がわからず正直な日本人を舐めまくった体の良いアメリカ式「ゆすり」だったのである。

早速、アンパンマンと善後策を考えたわけである。まずHPに裏を取った。そうしたら向こうの反応は、こっちの方が業績悪化で人員整理したいくらいだ、そんな電話するわけがないと一笑に付される始末。そこで今度はミックにカマをかける事にしたのである。

続きは明日。乞うご期待。