ハルゼミ2  
 

2002-4/22 (Mon)

 
 

ハルゼミと言えばまだ思い出があった。

確か学生の頃である。まだ聴いた事が無いハルゼミの声に憧れていた頃、印旛沼の方にハルゼミが多いと聞き、買ったばかりの車で朝早く印旛沼方面へ出かけたのである。そう言えば蛇足だが、この時千葉の山の中で腹の調子が悪くなり、初めて野で垂れたのも懐かしい思い出である。

場所がよくわからないだけに印旛沼周辺に松林を求め彷徨っていた時、ちょうど手頃な松林を見つけた。まだハルゼミが鳴き出すには少しばかり早い時間であったと記憶している。しかしここでひょっとしたら初めて、ハルゼミの声が聞けるかもしれないと言う興奮に、ワクワクしながら松林の中に分け入り録音機材をセットし始めた。

私の場合殺生はしない。捕虫網は持つがこれは確かにそのセミかどうかを確認するためで、必ずキャッチ&リリースをモットーとしている。但し、声だけは何故か執着心が有り、一通り全国津々浦々のセミ達の声を集めるまでは、必ず録音機材を共にしていた。

その時、使った機材はガンマイクと呼ばれる指向性の強いマイクである。形がピストルの形をしているだけにガンマイクと呼ばれるわけだが、その指向性のため、鳴いているセミの方を向けると周りの音はある程度遮断され、格好の集音装置となるわけである。

また森には結構小蝿とかブヨとかがいて、水分のある口とかに寄って来てうるさいので、今の花粉症マスクのような大きめのマスクを付けていたのである。加えて晴天だったのでサングラスまでしてハルゼミの声を狙っていたのである。

待つ事おそらく数十分、案の定、期待通りハルゼミが鳴き始めた。早速ガンマイクを掲げその声の方向に向けた。そしてマイクを通して入ってくるその鳴き声をヘッドフォンで堪能していたのである。

そうしたらその松林の中に続く小径を地元のおばさんが自転車を押しながらトボトボとやってきた。そして私の姿に気付くなり、いきなり顔色を変えあわててその自転車に乗って走り去ったのである。

一瞬、何をあわてているのかと思って考えたら、それはきっと私の異常な姿に驚いたのであろうと察せられた。無理も無い。ピストルを持ってサングラスとマスクで変装した男が森の中に早朝から佇んでいるのである。見ようによっては朝早く事を済ませ、足元には死体が転がってるなんてことを想像したのかもしれない。

警官でも引き連れてこられたらややこしいので、早々にそこを引き上げたのは言うまでも無い。

セミ聴きもなかなかいろんな苦労があるのである。