O婦人  
 

2002-2/4 (Mon)

 
 

旦那様の方はさんざ触れたので、やはり次はO婦人の方へと話が行くのが自然の摂理であろう。

このO婦人。ご結婚前はTと言うお名前で、OAのインストラクターとして教鞭を振るっていたのである。また、そのOA研修の最中、何人もの男性若手社員がそのダイナマイトバディに幻惑され、昇天してしまったと言う逸話の持ち主である。話し方も所謂山の手のそれで、気品溢れる物腰は、どちらかと言うと品の無いM社の中にあって、清楚なユリの花と言うか、拡張高すぎてどこか場違いと言うか、兎に角そんな感じだったのである。

実はそのT嬢の研修を私も新人時代受けた事がある。しかしその前にこの話をしておかないと、この話は面白くない。

私の会社の先輩にSと言う、これも破格の知るひとぞ知る有名人がいる。イメージとしては昔流行ったアニメのキャラクター「パタリロ」を思い出してもらいたい。実はこの方、会社だけでなく、私の高校の先輩でもある。まだ配属前の人事部付けの研修で、H社の工場に見学旅行に行った時、引率について来られたのがこのS氏であった。

その時、目ざとくその御姿を見つけた私はS氏に駈けより、「Sさん、A高校の後輩のYです」と話しかけたのであった。A高校でも兎に角、コマネズミのように小さい体を存分に使い、ロックバンドのボーカルとしてステージを駆け回ってたのが、とても印象的だったので忘れようも無い。

そしてH社の工場で私はS氏に「もし、Sさんの部に配属になったら宜しくお願い致します」と言ったらこれが運命の悪戯。

話は戻るが、その人事部付けの研修時代に私はT嬢の研修を受けた。大学時代私は「コンピュータ論」などを専攻していたので、他の新人とは比較にならないぐらい、その研修では優秀な成績を収めたのであった。当時まだコンピュータなどはほんの一部の人間しか使わなかったので、他の新人に比べ私の成績が良いのも当然のこと。そのためT嬢からお褒めの言葉を頂いたのである。

「Yさんのような方がうちの部にいらっしゃったら、助かりますわー。おほほほほー」

と言って、誇り高くあくまでもお上品にお喜びあそばれたのであった。

そして、入社して1ヶ月の人事部付けの研修が終わり、16階講堂で新人の配属先が告げられた。驚くことに私の配属はシステム部。何と言う因縁、そうS氏とT嬢の働く部に私は本当に配属されてしまったのであった。

16階講堂から、当時企画課の課長代理であった、常に口を曲げて喋り、細い体を若干前に倒して歩くT氏に連れられて、2階のシステム部のドアをくぐった。その時、右手の方に立ちながら、背筋をシャンと伸ばして電話をしているS氏の姿が目に映った。S氏も私の事を気が付いた模様で目と目があった。そこで私は「僕、ほんとに同じ部に来てしまいました」との意志表示をするべく、右手を軽く上げて彼に向かって手を振ったのである。

彼も気付いて軽く手を振った。おー、初日から心地よいコミュ二ケーション。幸先が良いでは無いかと振った手を下ろそうと思ったその時、私とS氏との対角線上で誰かがこちらに手を振っているのに気づいた。目の焦点を今度はそちらに合わすと、若干首をかしげ、はにかみながら手を振っているのは、何とT嬢!

これは私がS氏に手を振ったのを自分に振られたと勘違いしていると思ったが、相手が手を振っているのをこっちが止めるわけには行かない。私も社交辞令的な笑みを浮かべ返したのを覚えている。

しかし、いくら私が女好きでも配属初日に女に手は振らない。今度は「あの新人、初日に女に手を振ったわよ」てなスケこましの烙印を早々に押されたかと気が気で無かったわけである。

後日、システム部の課内旅行でO氏は酔い潰れた。そしたら4人がO氏の手足を持って、「チョウチョ、チョウチョ」と言いながら体を上下に振る、伝説の荒業「チョウチョ」を仕掛けた。するとO氏の口から思わず「Y子〜。助けてくれ〜」と言う断末魔の叫びが発っせられたのである。その時、賢明な私は即、O氏とT嬢の関係に気付いたのである。そうY子はT嬢のファーストネーム。その時、一時でも手を振り合った私とT嬢のことを知ったらこの「狂気の人」は嫉妬に狂い、どんな洗礼を私に浴びせるのかとビビッたのを覚えている。きっと夜使っている鞭とかハイヒールとかを持ってくるのではないかと。

しかし、その叫びを聞いてどんなに偏屈でもO氏も人の子。それ以来、どんなに錯乱されても憎めないお人となったのである。またこの「狂気の人」O氏を牛耳るT嬢にも畏敬の念を持ったのもまた事実である。

本当に超ド級の凄いカップルだったのだよ。