司会とスピーチ  
 

2002-1/17 (Thu)

 
 

結婚式の司会とスピーチを同時にやった事がある。

私のM社時代の後輩、所謂女好きのIが遂に年貢を納め、私に結婚式の司会を頼んできた。その意図は「スピーチを頼むと何を言われるかわからないので、無難に司会にしました」って事のよう。そうだろうなー、彼の悪事の数々を知っている私としては、スリル溢れるスピーチをすることがご来場の方々の期待に応える責務と言う物。しかしそれは反面、彼にとってはたまったもんじゃない。一見この選択は賢明に見えた。がしかし。

彼の胸中は十分に察したが、だからと言って「結婚式仕掛人」の私、こう言われたらいくら口下手で内気な私であってもムラムラと反骨心が首をもたげると言うもの。そう、彼は司会が結婚式では万能の神のような力を持っている事に気付いていなかったのだ。だってMaster of Ceremony(MC)と言うではないかい。

当日、まず式場の係との打合せで、Iとの予定には無かった私のスピーチをトリに入れた。係も洒落た奴で「じゃ、これは秘密ですね」と言って指を口にあて「シー!」てなポーズを取る。う〜む、式の最後が楽しみになってきた。

で、彼が裏切った女が刃物を持って乱入することも無く、式は滞り無くお開きを迎えようとしていた。彼をチラと見ると、全員のスピーチが終わり、誰も彼の独身時代の極悪非道な過去に触れることなく穏便に過ぎた事も有り、安堵の表情を浮かべていたのである。

「えー、それでは続きまして、新郎方の上司であられますM株式会社のXX様よりご祝辞を賜ります」と司会の私がXX氏、即ちスピーチの私を紹介した。そこで私はおもむろに付けていたメガネをはずし、当時はまだあった髪の毛をわざと乱して、マイクへと向かった。

この予期せぬ出来事を前にIの顔には「やられた」って書いてあったなー。ふふふ。どーだ、司会は何でも出来るのだ。そしてマイクの前に立ち

「ただ今ご紹介に預かりましたXXです」

ドーっと受けるご来賓。引きつるI氏。そこから延々と溜めに溜めていた気持ちを吐露してあげたわけです。

「彼は人間の三欲の塊です。要するに食欲、性欲、睡眠欲」
「まず食欲ですが、美味しいもの食べてる時は何を言っても聞こえてませんから言っても無駄です」
「次に性欲ですが、彼は本当に女性に優しく、すべての女性の前で白馬の王子を演じられます。これは本能です。条件反射です。脊髄反射です。パブロフの犬です。この間も保険の勧誘のおばちゃんの前でそれを演じて、おばちゃんをポーッとさせてました。他にも性欲にまつわる話は五万とあるのですが、今日は奥さんもいる目出度い席なのでやめときましょう」
「最後に睡眠欲ですが、彼は会議中まず寝てます。この間も始まって即、船を漕ぎ始めたので、後ろから近づいて殴ってやりました。そしたら語気荒く「寝てませんよ!」って言うから「寝てるか寝てないかが問題じゃない。寝てるように見えることが問題なんだ!」って言い返してやりました」

てな感じで約20分。万来の拍手の中、再びメガネを付け髪を櫛で整え,司会のマイクに戻り、再び司会の私が平然と

「XX様、大変含蓄のあるお話、有難うございました」

いや〜これはなかなか面白かったなあ。またやりたいなあ。あ、そうそうこのI氏その後離婚したんだよなー。

コラ、I!このページ見ていたらご祝儀返せ!