金属探知機  
 

2001-11/15 (Thu)

 
 

今世界はこのような状態なのでセキュリティチェックは万全な体制を採っているはずである。特に空港は金属探知機などを使って執拗なまでのチェックを行っていることであろう。

それで思い出した話。

某社のMさん。誰が見てもカツラを着用しているとわかる。無論、本人は気づかれているとは知らずに、出張のためニューヨークの空港に現れた。それを迎える関係会社の二人。おお、今日もしっかりカツラをつけていると目で確認するが、当たり前のことだが決してそれには触れない。

カウンターでチェックインして、さてセキュリティチェックへと向かう。手荷物をX線装置に入れ、そのMさん、今度は自分の持ち物をポケットから出し、金属探知機をくぐったその時、高らかに鳴り響く「ビー」と言うブザーの音。

首をかしげながら、ポケットの中にまだ反応する物が無いかを確認し、再び金属探知機をくぐると、またもや高らかなブザーの音。

その時既に、セキュリティチェックを終えていた関係会社の二人。一方がこのM氏の事態を眺めながら、シニカルにもう一方へ呟いた。

「あれはカツラの止め具に反応しているんだ」

それを聞いて一瞬笑おうと思った二人であったが、ここでカツラを取られる事態となった時のフォローの難しさに即気づき、逆に背筋が寒くなった二人であった。しかし、今やどうすることもできない。

そうこうしているうちに件のM氏は、金属探知の棒を持った係員の方へと呼ばれていた。

観念したようなM氏の表情。係員はまず足の方から、腰、腹、胸、腕、首とその金属探知機を当てて行き、そしてついにその金属探知機は頭のところに達したのであった。

そして関係会社の二人が固唾を飲んで見守る中、ついに無情にもその乾いた運命の響きは空港に鳴り渡ったのであった。

「ピー」

意外な所でなった音に驚く係員。人間としての尊厳を失ったかのようにうなだれるM氏。正視できずにうつむく関係会社の二人。その時確かに時は止まったかのようであった。

暫しの沈黙の後、はっと我に返った係員。すべてを察したらしく「O,O,OK」とどもりながら言うと慈愛の瞳で快くM氏を解放したのであった。

そしてはにかみながら、関係会社の二人の所に歩いてくるM氏であったが、関係会社の二人は最適なフォローの仕方が皆目わからず、そのまま3人は無言のままゲートの方へと歩いて行ったそうである。

これ実話である。