捨て身  
 

2001-8/19 (Sun)

 
 

失うことを恐れないこと。守ろうとすると失う。どうやら捨て身が功を奏すのが宇宙の法則のようだ。但し、そこに「エゴ」が存在しないことが必要条件か。

こんな話がある。

あのシアトルマリナーズの佐々木に会った。去年の夏のことである。シカゴのピアノバーで飲んでいた時、偶然そこに来たのだ。その時の佐々木は既に大リーグ名救援投手としての名声を堅固なものにしつつあった時期である。

その佐々木も大リーグ1年目の昨年シーズン当初は、2回連続して逆転サヨナラホームランを打たれ救援投手失格の烙印を押されたのである。2軍に落ちたがしかし、それから立ち直りシーズン終了後は見事新人王に輝いたのであった。

「一体あのドン底から如何に立ち直ったか?」

これが私の疑問であった。なんだか無性に話が聞きたいと思っていたら本当に会ってしまったのである。しかし、そんなに単純にあの大投手から話が聞けるわけは無い。それに4,5人の女性に囲まれてくつろいでいる彼に対しこの質問をする勇気は無く、ご挨拶だけでお茶を濁してしまったわけである。

「千載一隅のチャンスを逃したー!!」

と叫んでも後の祭り。自分の勇気の無さを恥じつつ、ホテルに戻ったのであった。

ところが神はちゃんと次の機会を用意してくれてたのであった。

ある秋の夜、何気なくニューヨークのTVJAPANのチャンネルをひねるとそこに佐々木がいた。シーズンオフとなり、NHKのサンデースポーツに招かれあの有働アナウンサーよりインタビューを受けていたのである。そしたらその質問が正に私の聞きたかった質問!

「どうしてあのドン底から這い上げれたのですか?」

有働さん。大ヒットだよ。それそれそれが私の聞きたかったことなんだよ。再びチャンスを与えてくれた神に感謝し、思わず身を乗り出す私。そしたらやっぱりなんだか無性に聞きたいと思ってただけ有り、非常に感銘した話であった。

。。。。

2回連続してサヨナラホームランを食らった佐々木は、どちらのホームランも日本なら打たれなかったコース。しかし、大リーガーの連中は腕が長く日本では押さえられてもこっちでは通用しない。

考えあぐねた佐々木は大リーグの審判が右バッターの時はキャッチャーの頭の右側から、左バッターの時はキャッチャーの頭の左側からボールを見ていることに着目。是即ち、ボールを判定する角度が日本のようにキャッチャーの頭の上から見ているのではなく、横から見ているため、外角にボール一個分ストライクゾーンが広いのだそうだ。

「日本と同じように攻めても駄目だ。あの外角ボール一個分のところを狙わねば」

と思った佐々木は、そこを攻めることで投球の幅を広げ、今日の栄光を勝ち取ったのだ。

その話を聞いた有働アナウンサー。

「でも、そこは本来ならボールのコースでしょう?ストライクを取ってくれないかも知れないじゃないですか」

そしたら佐々木

「ボールで良いと思って投げてるんです。ストライクを取ってくれたら儲けもの。僕にはもうそこに投げるしかなかったですから」

う〜むと思わず唸ってしまったね。もう僕にはそこを攻めるしか残されてない。結果は別だ。捨て身となった彼は結果今日の栄光を勝ち取ったのである。

失うことを恐れていても仕方ない。ただ自分のやるべき事をやって天命を待つ。さすれば天は味方する。そんな感じがする実にためになる話であった。

私は大リーグしかないと思っていた野茂と違って佐々木は「日本で成功したから大リーグでも」なんてあわよくば的な発想で大リーグに乗り込んで来たのかと思っていた。(最初はそうであったかもしれないが)また「大魔人」と言うニックネームから受ける印象がどこか「傲慢」な感じがあり、余り好きになれなかった。最初打たれてそら見たことかと思ったほどである。

ところが、この話を聞いて実は恥じ入るは私であったと反省した次第。話し方も実に紳士的で好感を持った。佐々木さん。このホームページを見る機会なんて決してないだろうけど、このページを借りて勝手に誤解していた事を謝ります。許してください。貴兄のご活躍とマリナーズの優勝を祈念しておりますです。はい。